夕方から門川方面に打ち合わせに行っていた。
帰り道、とあるコンビニによろうとしたところ
10号線のエンセキに少々タイヤのサイドをこすってしまった。
ところが、なんと、そのタイヤは簡単に擦り切れて、あえなくパンク・・・。
おいおい・・・こんなことで・・・よしてくれよ・・・と思ったが、
そういえば昨日の朝、行きつけのガソリンスタンドでこんな会話をしたっけ
「もうタイヤやばいっすねぇ、かなり痛んでますよ」
「もうちょっとだけ大丈夫かな・・・実は今日忙しいんだ」
「なんともいえないですけど、早めに交換したほうがいいですよ」
「じゃ、とりあえず明日かあさってにもってきます」
・・・・・なんとも皮肉としかいいようのないこの状態。
しょうがない、面倒だけどスペアタイアヤに交換するか・・・と、
エアコンの効いた車内から、ギンギンに熱したコンビニの駐車場におりる。
車の熱も合わさってムッとする。目玉焼きができそう!
どうせ大した役にはたたないだろうと思って、
春にダッシュボードにまるめていた軍手が、こんなところで役に立った・・・。
ぐちゃぐちゃな荷物を片付け、備え付けのスペアタイヤとジャッキなどを引っ張りだし
焼けたコンクリートに片ヒザをついてセッティング開始・・・
このときばかりは南国宮崎が憎たらしかった。
備えあれば憂いなし・・・そんな言葉が頭をよぎりつつ、ジャッキアップ。
「まあ、いつかは交換しなくちゃいけなかったんだから・・・」
でも、いっその事、タイヤ交換なんかできない人だったら、
こんな暑い中でガサゴソせずに、冷たいものでものんで
「お待たせしました」と業者が来るのを待てばいい。
ガクトなんか、交換できても自分じゃしないんだろうな〜。
そんな意味のない事まで頭をよぎってしまう・・・やれる事は自分でやる小市民。
熱さにイライラしながらスペアタイヤに交換完了。
ジャッキアップして、ねじをはずして、しめるだけの単純な作業・・・。
さほど時間はかからないが、こんなはずじゃなかったという気持ちと
自分の額から流れおちる汗が、妙に腹だたしく、やけに無駄な事をしたと感じる!
まあ、今日はこんなもんだろ!と自分に言い聞かせつつ、
気持ちを切り替えるべく、缶コーヒーを購入。130円。エアコンが気持ちいい店内。
出たくはなかったが、車に戻り、キーを回す。エンジンは問題なさそう。
シートに落ち着き、エアコンをオンにし、
冷たい缶コーヒーを勢いよく空けグッと飲み干す。「さあ〜て事務所に帰るか!」
ATギアをドライブに入れて、スペアタイヤの様子をうかがいながら発進!
軽くステアリングをきってみる・・・。あれ?なんかスッキリしないぞ?
タイヤを交換したにもかかわらず、パンクをした時の生々しい感覚が
ステアリングを通してそのまま腕に伝わってくる。何故?
エアコンが効きはじめた車内から、再びタイ・シンガポールの旅へと逆戻り・・・。
車外へでて、交換したばかりのスペアタイヤをチェック。
案の定、長く使っていなかったスペアタイヤからは空気がもれ
ぺッタンコにつぶれている・・・。なんとまあついてない日だ・・・。
もうスペアはないし、この暑さの中、近くのガソリンスタンドまで歩くのも面倒くさい。
「そうだオレはタイヤ交換なんてできないんだ!」
そういう事にして、れいの行きつけのガソリンスタンドに電話をいれた。
「すいませんカクカクシカジカで着てもらうわけにはいきませんか?」
「あ〜やっぱり交換しておくべきでしたね・・・今どこですか?」
「門川で立ち往生してるんですよ。どうにかならないですかね〜」
「あいにくスタンドに人がいなくて出れないんですよ。
近くのガソリンスタンドでエアーだけいれてもらえないですかね」
「そうするほかないですね・・・」
「タイヤ交換などできません作戦」はあっけなく失敗におわった。
やっぱり、ガクトにはなれない・・・自分でやるよりしょうがない、
まてよ、ちょっとそんするけど、近くのガソリンスタンドまで歩いていって
帰りは、持ち運びのできる空気入れと一緒に車にのっけってもらえればラッキーだ。
そうしよう、これは絶対いけるはず。いくらなんでも、事情をはなせばわかるはず。
あるく事10分程度、ガソリンスタンドに到着。
「すいませ〜んカクカクシカジカで空気を入れてもらいたんですけど
車は○○のコンビニの駐車場にとめています」
「ごめんね〜うちは、持ち運びできるタイプはないんだよ
だから悪いけどタイヤをはずして、ここまで持ってきてもらえる?」
と笑顔の店員。ない袖はふれない・・・コレ当たり前。
「・・・・・・・・」しばし沈黙のセガール状態。
ちきしょーあまかったか・・・。
しかし、なんで笑顔なんだよ〜そうかわかったぞ・・・人事だからだ・・・。
そんなにこっちの都合よくいくはずもないのは理解できる。
でも、「もし運よく事がすすめば」と期待してしまう・・・。
運がないからこういう事になっているはずなのに。
冷静に考えれば普通の会話のはずが、こんな時は
「なんて冷たい言葉を発する人だろう」そう思い込みたくなるもの。
「またあそこまで歩くのか」という気持ちがそう思わせる。
でも、こんなについてない時は、自分以外の誰かのせいにしたい。
気をとりなおして、ヨロヨロ歩いて車のとめてあるコンビニへもっどた。
もう一度スペアタイヤをはずし終わる頃には、汗とホコリがまじってベトベト
気持ちわるい。さっきまでのタイ・シンガポール旅行といったアジアンな熱さから、
一気に「灼熱のアラビア生活!体験ツアー」に見事当選してしまった。
ダルダルの心で、つぶれたスペアタイヤをはずす・・・。
細いスペアタイヤだが、これをもってテクテク歩き出すと
以外に持ちにくく、そのせいで重たく感じられる。
ますますイライラがつのるばかり。
少々やけっぱち気味でスタンドの店員さんに声をかける
「すいませ〜んタイヤ持ってきました」
その無理矢理な明るい声とは裏腹に、心の中では、いけない悪魔がこんなふうに叫ぶ
「もってこいっていうから、もってきてやったよ、ほら!」
なんて礼儀知らずな心の叫びだろう。この店員さんには関係ないじゃないか。
南国宮崎の熱さが人を変えてしまうんだ・・・だって、ホラ、
買ったばかりシャツが汗でビショビショになってる・・・こんなハズじゃなかった。
何故か勝手に逆切れ状態の私に、このスタンドの店員さんは
ニッコリわらってこう話し掛けた。
「大変だったでしょ。ごめんね、うちのが持ち運びできなくて、
たまにスペアもみてやらないと、エアがぬけてたりするんだよね!」
丁寧にエアーを入れてくれ、さらに、
「なあに、ただの空気さ、お金はいらないよ、でもそれは
あくまでもスペアなんだからスピード出しちゃだめだよ。気をつけてお帰り!」
もしかしたら社交辞令かもしれない、そんなちょっとした言葉だが、
その言葉がきっかけとなり、はじめてまともに店員さんの顔をみることができた。
そういえば不運がつづいて、顔すら見ようとしなかった。
じっくり眺めれば、彼はとても優しい顔をしている中年だった。
彼のひとことが、まるで砂漠の中のオアシスのように、私の心を冷静にしてくれた。
そして、やっと彼の笑顔を素直に感じる事ができた。
元はといえば、早めにタイヤを交換しなかった自分が全ての元凶なのだ。
しかし、おそろしいのは、ついてない事がつづくと
こんなに優しい笑顔にすら気が向かなくなってしまったり、
物事をひねくれて考えてしまったり、すべてネガティブになっていく。
急にさっきの心の叫び「もってこいっていうから、もってきてやったよ、ほら!」
が、声には出していないが、恥かしくてしょうがなくなった。
そういえば、さっきも、彼は自分が思うほど悪い断り方はしていなかったかもしれない。
ちゃんと「悪いね〜」っていってたはずだ。イライラが勝手な解釈を自分の脳に伝えるのだ。
エアーを入れてもらった後は、先ほどのイライラはもうなく、いまいましい汗すら
「あ〜いい汗かいたな〜、たまにはいいか」そんな気分になっていた。なんて単純な。
「気の持ちよう」とはよく言ったものだ、自分の気持ち次第で、
いい人も大悪人になってしまう。
さっきの店員さんのひとことのおかげで、
灼熱のアラビアですら、なぜか楽しいものになってきた。
言葉や笑顔にも冷房効果があったとは!
帰り道はタイヤもさほど重たいとはおもわなかった。勝手なものだ。
まあ汗とホコリにまみれ、かなり疲れはしたが、いろんな意味でいい体験をした。